2010年10月16日土曜日

【経済が告げる】編集委員?田村秀男 「8」に呪縛される世界

 変幻自在の市場経済が全地球を覆うこの世に中国の経済成長ほど不思議なものはない。天地創造の神のごとく、「8%成長よ、あれかし」と指導者が唱えると、本当にそうなってしまうのだ。

 経済規模の判定はとどのつまりは、北京の「大本営発表」に頼るしかない。国際通貨基金(IMF)、世界銀行など国際機関はもとより日米欧も中国当局が発表する国内総生産(GDP)統計データを鵜呑(うの)みにする。そこで世界中のエコノミストが「2010年こそは中国がGDPで日本を抜いて世界第2位になる」と騒ぐ始末だ。常日ごろ中国統計の信憑(しんぴょう)性を疑っている筆者も仕方なく「中国の2ケタ成長は云々(うんぬん)」と論じるときがあるが、何とももどかしい。

 ところが、つい最近目から鱗(うろこ)が落ちた。中国共産党内部に通じた有力筋から聞き出したのだ、8%成長の密(ひそ)かな理由を。

 ??なぜ、“保八”と言って中国政府はGDP成長率8%にこだわるのか

 「09年の経済見通しの場合、官庁エコノミストが7%周辺の成長率を党幹部に示したら、駄目だ、とにかく8%にしろと強引に指示した。党官僚は公金の8%以上をくすねているからだ。横領はいわば暗黙の慣行として予算に潜り込ませている。8%以上国有企業の売り上げや国や地方の税収が自然に増えなくても、8%を先取りする」

 ??そんなバカな

 「党幹部は真剣だ。予算執行のごまかしにより、欠陥工事の橋やビルが倒壊すれば社会問題に発展する。保八は至上命令だ」

 今月14日に閉幕した全国人民代表大会(全人代、共産党主導による国会)で、温家宝首相は8%成長の維持と並んで「灰色収入の断固取り締まり」を打ち出した。しかし、全人代を仕切る党幹部たちから異論が続出、結局うやむやにされてしまった。「灰色収入」とは政府が捕捉できない不当利得すべてを指し、北京の中立系エコノミストの試算ではGDP比8%どころか、13%にも上るという。貧富の格差が広がる中、さすがに党官僚の不正を胡錦濤指導部も灰色のまま放置できなくなったが、是正不可能な現実をさらけ出した。

 では、8%成長はどうすれば達成できるのか。党指令による市場経済体制の中国の場合、恣意(しい)的な成長率のかさ上げはさほど難しくない。鍵はGDPの45%を占める固定資産投資である。輸出がGDPに占める割合も同規模で、輸出が金融危機のために前年比で20%減るが、固定資産投資をその倍の40%増やすと、輸出減の分を相殺でき従来の成長率を維持できる計算になる。固定資産投資は公共投資と企業の設備投資や不動産開発投資などで占められる。

 胡錦濤政権は財政支出を大幅に増やす。さらに党指令により、国有商業銀行は09年1月から融資を前年比で一挙に3倍まで増やしている。国有企業などは有り余るカネを設備ばかりでなく、ビルやマンションなど不動産開発に投入する。この結果、楽々と09年は8%以上の実質成長を達成、続いてことしも同じペースで行くはずだ。

 こうみると、なぜ中国が固定相場にこだわるのか背景がわかる。中国当局は入ってくるドルを買い上げ、人民元を刷っては銀行に流し、銀行は融資に奔走する。米国が要求する変動相場制に移行すればそうはいかず、「保八」は極めて困難になる。米中関係、いや世界が「8」という数字に呪縛(じゅばく)される。

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引用元:住宅 | 柏市

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